0-5 反応の量的関係と酸・塩基
この章のゴールと導入クイズ
この章を読み終えると、分析に関する概論の容量分析と溶液の席(問11・問12・問5・問6)のうち、中和の計算、反応式の量的関係、同じ濃度の酸・塩の水溶液のpHの大小が解けるようになります。13回で延べ15問に直結します。
Q1 都市ガスの主成分であるメタンを燃やすと、二酸化炭素と水ができます。メタンの分子1個が燃え切るのに、酸素の分子は何個必要でしょう。
- 1個
- 2個
- 4個
Q2 同じ濃度(0.1mol/L)の塩酸と酢酸の水溶液があります。酸性が強い(pHが小さい)のはどちらでしょう。
- 塩酸
- 酢酸
- 同じ濃度なので同じ
(答え Q1:2 Q2:1)
1 反応式の係数は「molの比」
言葉の確認 物質が変化して別の物質になることを化学反応といい、それを化学式で書いたものを反応式(化学反応式)といいます。化学式の前の数字を係数と呼び、1は書きません。
例 メタンの燃焼の反応式は次のとおりです。
CH₄ + 2O₂ → CO₂ + 2H₂O
メタンの分子1個と酸素の分子2個が反応して、二酸化炭素の分子1個と水の分子2個ができる、と読みます。導入クイズQ1の答えはこの係数です。矢印の左右で、原子の種類と数は必ずそろっています(Cは1個、Hは4個、Oは4個)。原子は組み変わるだけで、消えたり増えたりしないからです。
係数は分子の個数の比ですが、0-2で見たとおりmolは「粒の束」なので、係数はそのままmolの比でもあります。メタン1molは酸素2molと反応し、二酸化炭素1molと水2molができます。
型カード0-5-A 反応式の量的関係
- 言葉の式:知りたい物質のmol=分かっている物質のmol×(知りたい物質の係数÷分かっている物質の係数)
- 手順:①分かっている物質の質量をmolに直す(0-2-B)②係数の比でmolを移す ③必要なら質量に直す
- 例:メタン8.0g(分子量16)を完全に燃やす。①0.50mol ②酸素は0.50×2÷1=1.0mol、二酸化炭素は0.50mol ③酸素32g、二酸化炭素22g
試験に出る反応 係数の合わせ方を一般に覚える必要はありません。過去13回で出た反応は、次の表でほぼ尽きます。
| 反応 | 反応式 | 読み方のポイント |
|---|---|---|
| 炭素の燃焼 | C + O₂ → CO₂ | 気体の分子の数(酸素1→二酸化炭素1)が変わらない(0-3) |
| メタンの燃焼 | CH₄ + 2O₂ → CO₂ + 2H₂O | 酸素は2倍、二酸化炭素は同じmol |
| エチレンの燃焼 | C₂H₄ + 3O₂ → 2CO₂ + 2H₂O | 酸素は3倍、二酸化炭素は2倍のmol |
| 炭酸カルシウムと塩酸 | CaCO₃ + 2HCl → CaCl₂ + H₂O + CO₂ | 塩化水素は2倍のmolが必要 |
| 塩酸と水酸化ナトリウム(中和) | HCl + NaOH → NaCl + H₂O | 1:1で反応(本文2) |
| 硫酸と水酸化ナトリウム(中和) | H₂SO₄ + 2NaOH → Na₂SO₄ + 2H₂O | 水酸化ナトリウムは2倍のmol(本文2) |
2 酸と塩基:中和はH⁺とOH⁻の数合わせ
言葉の確認 水に溶けて水素イオン(H⁺)を出す物質を酸、水酸化物イオン(OH⁻)を出す物質を塩基といいます。酸1個が出せるH⁺の数(塩基ならOH⁻の数)を価数と呼びます。塩酸(HCl)は1価、硫酸(H₂SO₄)は2価、水酸化ナトリウム(NaOH)は1価です。
酸と塩基を混ぜると、H⁺とOH⁻が1個ずつ結びついて水(H₂O)になり、互いの性質を打ち消し合います。これが中和です。
例 0.10mol/Lの硫酸20mLを、0.20mol/Lの水酸化ナトリウム溶液でちょうど中和するには、何mL必要でしょう。
- 硫酸が出すH⁺:2価×0.10mol/L×0.020L=0.0040mol
- 必要なOH⁻も0.0040mol。水酸化ナトリウムは1価なので、0.0040÷0.20=0.020L
答えは20mLです。硫酸は2価なので、同じ濃度の塩酸の2倍の水酸化ナトリウムが要ります。
型カード0-5-B 中和の量的関係
- 言葉の式:酸の価数×濃度×体積=塩基の価数×濃度×体積
- 手順:①酸のH⁺のmolを出す(価数×濃度×体積)②それと同じOH⁻のmolを、塩基の価数×濃度で割って体積を出す
- 注意:体積はLにそろえる。価数を掛け忘れるのが一番多い誤り
混ぜた後に余る場合
酸と塩基の量がつり合っていないと、多い方が余ります。余ったH⁺(またはOH⁻)を、混ぜた後の全体積で割れば、その濃度が出ます。
型カード0-5-C 混ぜた後の余り
- 言葉の式:余ったイオンの濃度=(多い方のmol−少ない方のmol)÷混ぜた後の全体積
- 例:0.010mol/Lの塩酸30mLと、0.010mol/Lの水酸化ナトリウム溶液10mLを混ぜた。H⁺は3.0×10⁻⁴mol、OH⁻は1.0×10⁻⁴mol。H⁺が2.0×10⁻⁴mol余り、全体は40mL(0.040L)なので、H⁺の濃度は2.0×10⁻⁴÷0.040=5.0×10⁻³mol/L
- この濃度からpHを出す計算は、0-6で扱う
3 強い酸・弱い酸と、塩の液性
言葉の確認 酸が水に溶けてH⁺を出すことを電離といいます。ほぼ全部が電離する酸を強酸、ごく一部しか電離しない酸を弱酸と呼びます。塩基も同じで、強塩基と弱塩基があります。酸性・塩基性の強さはpHで表し、7が中性、7より小さいほど酸性が強く、大きいほど塩基性が強くなります(pHの計算は0-6)。
例 導入クイズQ2の塩酸と酢酸は、同じ0.1mol/Lでも、塩酸はほぼ全部がH⁺を出すのに対し、酢酸は1%程度しか出しません。水溶液中のH⁺がずっと多いので、塩酸の方が酸性が強くなります。
| 分類 | 試験に出る物質 | 覚え方 |
|---|---|---|
| 強酸 | 塩酸、硝酸、硫酸(2価) | 同じ濃度なら、2価の硫酸が最も酸性が強い |
| 弱酸 | 酢酸、フッ化水素酸、炭酸 | 名前に「酸」が付いても弱いものがある。フッ化水素酸は弱酸 |
| 強塩基 | 水酸化ナトリウム、水酸化カリウム | — |
| 弱塩基 | アンモニア | — |
同じ濃度の水溶液をpHの小さい順(酸性の強い順)に並べると、硫酸、塩酸・硝酸、酢酸、(中性)、アンモニア、水酸化ナトリウムとなります。
塩の液性:「強い方が勝つ」
中和で水と一緒にできる物質を塩(えん)といいます。塩酸と水酸化ナトリウムからできる塩化ナトリウムがその例です。塩を水に溶かしたときの液性は、もとの酸と塩基のどちらが強いかで決まります。
| もとの酸 | もとの塩基 | 塩の水溶液 | 例 |
|---|---|---|---|
| 強酸 | 強塩基 | 中性 | 塩化ナトリウム |
| 強酸 | 弱塩基 | 酸性 | 塩化アンモニウム |
| 弱酸 | 強塩基 | 塩基性 | 酢酸ナトリウム |
なぜ強い方が勝つのか 弱い方の相手(酢酸ナトリウムなら酢酸のなごり)は、水の中で少しだけ水と反応して、もとの弱い酸に戻ろうとします。そのときに水からH⁺を奪うので、OH⁻が余って塩基性になります。試験では、この結論(強い方の性質が残る)だけを使えば解けます。
滴定の当量点のpH 酸をちょうど中和し終えた点を当量点といいます。酢酸を水酸化ナトリウムで中和し終えると、液は酢酸ナトリウムの水溶液になるので、当量点のpHは塩基性側(7より大きい)になります。強酸を中和した場合は中性です。
ここだけは覚える
- 反応式の係数はmolの比:分かっている物質をmolに直し、係数の比で移す。試験に出る反応は表の6つ。
- 中和は「価数×濃度×体積」の数合わせ:硫酸は2価。余ったら、差を全体積で割る。
- 強い方が勝つ:同じ濃度なら硫酸が最も酸性。弱酸と強塩基の塩(酢酸ナトリウム)は塩基性。
練習問題
原子量はH=1、C=12、O=16、Ca=40とします。
- エチレン(C₂H₄)0.20molを完全に燃やしました。必要な酸素と、できる二酸化炭素はそれぞれ何molですか。
- メタン(CH₄)4.0gを完全に燃やすと、二酸化炭素は何gできますか。
- 炭酸カルシウム(CaCO₃)1.0gと過不足なく反応する塩化水素は何molですか。
- 0.050mol/Lの塩酸20mLをちょうど中和するには、0.10mol/Lの水酸化ナトリウム溶液が何mL必要ですか。
- 0.20mol/Lの硫酸10mLをちょうど中和するには、0.10mol/Lの水酸化ナトリウム溶液が何mL必要ですか。
- 0.020mol/Lの塩酸20mLと、0.010mol/Lの水酸化ナトリウム溶液20mLを混ぜました。混ぜた後のH⁺の濃度は何mol/Lですか。
- 同じ0.1mol/Lの酢酸、塩酸、硫酸の水溶液のうち、pHが最も小さいものはどれですか。
- 酢酸ナトリウムの水溶液は、酸性・中性・塩基性のどれですか。
解答
| No. | 答え | ポイント(型カード) |
|---|---|---|
| 1 | 酸素0.60mol、二酸化炭素0.40mol | 係数1:3:2(0-5-A) |
| 2 | 11g | 4.0÷16=0.25mol。二酸化炭素も0.25mol、×44(0-5-A) |
| 3 | 0.020mol | 1.0÷100=0.010mol。塩化水素は係数2で2倍(0-5-A) |
| 4 | 10mL | 0.050×0.020=0.0010mol、÷0.10=0.010L(0-5-B) |
| 5 | 40mL | 2価×0.20×0.010=0.0040mol、÷0.10=0.040L(0-5-B) |
| 6 | 5.0×10⁻³mol/L | H⁺4.0×10⁻⁴mol−OH⁻2.0×10⁻⁴mol=2.0×10⁻⁴mol、÷0.040L(0-5-C) |
| 7 | 硫酸 | 強酸で、しかも2価 |
| 8 | 塩基性 | 弱酸(酢酸)と強塩基(水酸化ナトリウム)の塩なので、強い方の性質が残る |
この章で解けるようになった過去問
| 科目・席 | 罠の型 | 出題(13回中) | 使う型カード |
|---|---|---|---|
| 分析問11 | 中和反応の量的関係 | 5回 | 0-5-B、0-5-C |
| 分析問11・問12 | 反応式の量的関係(炭酸カルシウム・燃焼) | 5回 | 0-5-A |
| 分析問5・問6・問12 | 酸・塩の水溶液のpHの大小 | 5回 | 本文3の表 |
| 分析問4 | 燃焼後の密閉容器の圧力(0-3と共通) | 2回 | 0-5-A と0-3本文5 |
標定に用いる物質(6回)、溶解度積(2回)、化学平衡(3回)は、計算ではなく分析の知識なので、第5部で扱います。