3-2 A測定とB測定
この節の位置づけ
A測定とB測定は、デザイン・サンプリングで毎回2問(A測定1問・B測定1問)出る「指定席」です。2019年度〜2026年度の公表13回で、この2席の正答肢は11の罠の型に収まり、そのうち6つがAランク(3回以上出題)でした。この節では、全ての罠を「A測定は場を偏りなく代表させる」「B測定は最悪の箇所・最悪の時間を押さえる」という2つの理由から説明します。
| 罠の型 | ランク | 出題回数(13回中) |
|---|---|---|
| 測定点の線の引き方(等間隔系統抽出) | A | 4 |
| 測定点の高さは床上50〜150cm | A | 3 |
| 10分以上連続測定の例外(検知管・相対濃度計) | A | 3 |
| 複数の作業位置で測ったB測定は最大値を採る | A | 3 |
| 短時間測定を積み上げたB測定は平均を採る | A | 3 |
| B測定もA測定と同じ方法で測る | A | 3 |
| 測定点を5未満にできる条件と測定値の総数 | B | 2 |
| 繰り返し測定の回数は各点同一 | B | 2 |
| B測定の目的(個人ばく露の測定ではない) | B | 2 |
| B測定の実施時間・実施の要否 | B | 2 |
| 濃度がほぼ均一の判断(幾何標準偏差) | C | 1 |
前提とする知識:前節(3-1 単位作業場所)。この節の内容は、次節(3-3 作業環境の評価と管理区分)で使います。
導入クイズ
本文を読む前に、直感で答えてください。答えと理由は本文の中で明かします。
Q1 吹付け塗装を行っている作業場で、作業場全体の有機溶剤の濃度を測ります。測定する場所の選び方として、正しいものはどれでしょう。
- 濃度が高そうな場所を、経験から5か所選ぶ
- 床に等間隔の線を引き、その交点で測る
- 作業者が多く集まる場所を選ぶ
Q2 同じ作業場で、吹付けガンを使っている作業者のすぐそばの、濃度が最も高くなる時間の濃度を測りたいとき、使う測定はどれでしょう。
- A測定
- B測定
- どちらでも測れない(作業者に測定器を付けるしかない)
(答え Q1:2 Q2:2)
1 なぜ2種類の測定があるのか
A測定は「場全体の平均的な姿」を、B測定は「発散源のすぐそばの最悪の瞬間」を測ります。目的が違うので、測る場所も時間も値の決め方も違います。
冬の部屋を思い浮かべてください。部屋が暖かいかどうかを知るには、部屋のあちこちで温度を測って全体の様子をつかみます。一方、ストーブの前に座る人が熱すぎないかは、部屋全体の平均では分かりません。ストーブの前で、火が一番強いときに測る必要があります。作業場の有害物質も同じで、前者がA測定、後者がB測定です。
A測定だけでは、発散源の近くで短い時間だけ濃度が跳ね上がる状況を見逃します。全体の平均が低くても、吹付けガンの前で作業する人は高い濃度を吸っているかもしれないからです。そこで、発散源の近くで作業がある単位作業場所では、A測定に加えてB測定を行い、両方の結果で管理区分を決めます。
| A測定 | B測定 | |
|---|---|---|
| 知りたいこと | 単位作業場所全体の濃度の分布 | 発散源近くでの最も高い濃度 |
| どこで | 等間隔に引いた線の交点(5点以上) | 濃度が最も高くなると思われる作業位置 |
| いつ | 作業が定常的に行われている時間 | 濃度が最も高くなると思われる時間 |
| 必ず行うか | 全ての単位作業場所で行う | 発散源の近くで作業がある場所だけ |
2 A測定:場を偏りなく代表させる
A測定のルールは、ほぼ全てが「測る人の判断を入れずに、場を偏りなく代表させる」という一つの理由から出てきます。この理由を先に頭に入れておくと、細かい規定を個別に覚える必要がなくなります。
2-1 線を引いて、交点で測る【A】
規定 単位作業場所の床面に、6m以下の等間隔で縦と横の線を引き、その交点を測定点にします。縦と横の間隔は同じでなくてもかまいません。交点は全て測定点にし、その中から選んではいけません。設備などと重なって測れない交点は、その点を除きます。
背景 測る人が場所を選ぶと、意識しなくても偏ります。「高そうな所」を選べば濃度は高めに、「安全そうな所」を選べば低めに出ます。そこで、くじ引きの代わりに等間隔の線という機械的な方法で場所を決めます。統計ではこれを系統抽出と呼びます。
もしこの規定がなかったら 同じ作業場でも、測る人によって結果が変わります。管理区分が測定士の腕次第になり、比べる意味がなくなります。
だからこう覚える 「点を選ぶ」「線をずらす」は、どちらも人の判断が入るので誤り。設備と重なる交点は、線を引き直して避けるのではなく、その点を除くだけです。同じ理由で、発散源が等間隔に並んでいるときは、線の間隔を発散源の間隔と一致させません。一致させると、全ての測定点が発散源の真上(または真ん中)にそろい、偏るからです。濃度がほぼ均一なことが明らかな場合は、偏りの心配が小さいので、6mを超える間隔でもかまいません。
2-2 高さは床上50〜150cm【A】
規定 測定点の高さは、床上50cm以上150cm以下です。
背景 有害物質が体に入るのは、主に呼吸からです。そこで、座って作業する人から立って作業する人までの、口や鼻の高さ(呼吸域)を範囲に含めています。
だからこう覚える 「座った人の口から、立った人の口まで」。試験では120〜150cmや100cmなど、範囲を狭めた誤りの記述が出ます。
2-3 測定点は5点以上。減らせるのは条件がそろったときだけ【B】
規定 測定点は原則5点以上です。単位作業場所が「著しく狭く」、かつ「濃度がほぼ均一であることが明らか」な場合に限り、5点未満にできます。その場合も、各点で同じ回数の繰り返し測定を行い、測定値の総数は5以上にします。
背景 A測定の結果からは、幾何平均と幾何標準偏差を使って評価値を計算します(次節)。ばらつきを推定するには、最低5個のデータが必要です。
だからこう覚える 減らせるのは「点の数」であって、「測定値の数」は5以上のまま。繰り返しの回数を点ごとに変えると、特定の点の重みが大きくなって偏るので、回数は全ての点で同じにします(2-1と同じ理由です)。「過去2年間第1管理区分だったから減らせる」は、条件に入っていないので誤りです。
2-4 1点10分以上。例外は「ためない」測り方【A】
規定 1つの測定点では、10分以上続けて試料空気を採ります。ただし、相対濃度計(デジタル粉じん計)、検知管、直接捕集方法は例外で、10分未満でもかまいません。その代わり、単位作業場所全体では、採取の開始から終了まで1時間以上かけます。
背景 ろ過捕集や固体捕集は、有害物質をフィルターや捕集管に「ためてから」量る方法です。10分は、量るのに十分な量を集め、短い時間の濃度の上下をならすための時間です。数値がその場で出る機器や、一瞬で空気を採る方法には、ためる時間は必要ありません。ただし時間による変動は拾う必要があるので、全体を1時間以上に広げます。
| 測り方 | 1点10分以上 | 全体で1時間以上 |
|---|---|---|
| ろ過捕集・固体捕集・液体捕集(ためて量る) | 必要 | (根拠資料で要確認) |
| 相対濃度計(デジタル粉じん計) | 不要 | 必要 |
| 検知管 | 不要 | 必要 |
| 直接捕集(捕集袋・真空捕集びん) | 不要 | 必要 |
だからこう覚える 「ためる方法だけ10分」。検知管や相対濃度計に「10分以上連続して」を求める記述は誤りです。
3 B測定:最悪の箇所と最悪の時間を押さえる
B測定のルールは、「発散源の近くで、濃度が最も高くなる箇所と時間を押さえる」という目的から出てきます。値の決め方は「場所は最大、時間は平均」の一言にまとまります。
3-1 目的は「場の最悪」。個人ばく露の測定ではない【B】
B測定は、発散源の近くで作業する位置での最も高い濃度を、「場」の測定としてとらえるものです。作業者の体に測定器を付けて一人ひとりのばく露を測るのは個人サンプリング法(C・D測定)で、B測定とは別の仕組みです(個人サンプリング法の節で扱います)。試験では「B測定は局所的・短時間の個人ばく露の評価のために行う」という誤りの記述が出ます。
3-2 いつ・どこで測るか【B】
規定 濃度が最も高くなると思われる時間に、その作業が行われる位置で測ります。発散源の近くで作業がある単位作業場所だけで行い、全ての単位作業場所で必要なわけではありません。
だからこう覚える 目的が「最悪の瞬間」なので、時間はA測定の時間内に限られません。測定時に作業者がいなくても、その位置に人が立ち入ることがあれば、その作業位置で測ります。
3-3 値の決め方:「場所は最大、時間は平均」【A】
規定
- 濃度が高くなりそうな作業位置が複数あるときは、全ての位置で測り、その最大値をB測定値とします。
- 検知管を5本使っても測定時間の合計が10分に満たないときは、10分間に均等な間隔で測った5本の指示値の算術平均をB測定値とします。
- 圧電天秤方式の相対濃度計では、2分の測定を続けて5回行い、その算術平均をB測定値とします。
背景 B測定値は「最悪の箇所で、最も濃度が高い時間帯の10分間の濃度」です。場所については最悪を探しているので、複数測ったら一番高いものを採ります。時間については「10分間の濃度」を求めているので、短い測定を10分間に並べたら、それをならして10分間の値にします。
だからこう覚える 「場所は最大、時間は平均」。複数の位置を平均する記述、短時間の測定値の最大値や幾何平均を採る記述は、どれも誤りです。
3-4 A測定と同じ方法で測る【A】
規定 B測定の試料採取と分析の方法は、A測定と同じです。相対濃度計を使う場合は、その単位作業場所のA測定で求めた質量濃度変換係数を使います。
背景 B測定の値は、A測定の結果と並べて管理区分を決める材料になります(次節では、B測定値を管理濃度やその1.5倍と比べます)。違う物差しで測った値は比べられないので、方法をそろえます。
だからこう覚える 「B測定の変換係数はA測定とは別に求める」「B測定では分粒装置を使わない」といった、AとBで方法を変える記述は誤りです。
ここだけは覚える
- A測定は「人の判断を入れない」:6m以下の等間隔の線の交点を全て測る。点を選ばない、線をずらさない、繰り返し回数を点ごとに変えない。高さは床上50〜150cm。
- 「ためる方法だけ10分」:1点10分以上はろ過・固体捕集などの方法だけ。検知管・相対濃度計・直接捕集は10分未満でよいが、全体で1時間以上かける。
- B測定は「場所は最大、時間は平均」:複数の作業位置は最大値、短時間の測定を10分間に並べたら算術平均。方法はA測定とそろえる。
間違い探し:試験で正答になった誤りの記述
過去13回で正答(=誤りの記述)になったものを、言い回しを整えて並べました。どれも本文の理由一つで見抜けます。
| 誤りの記述 | 正しくは | 見抜く理由 | 出題 |
|---|---|---|---|
| 設備と重なる交点を避けるため、線の間隔を変えて引き直す | その交点を除くだけ | 人の判断を入れない | 4回(型として) |
| 交点の中から5点を選んで測る | 交点は全て測る | 人の判断を入れない | 同上 |
| 測定点の高さは床上120〜150cm(または100cm) | 床上50〜150cm | 座った人から立った人の呼吸域 | 3回 |
| 検知管でも1点10分以上連続して測る | 10分未満でよい(全体1時間以上) | ためる方法だけ10分 | 3回 |
| 複数の作業位置で測ったB測定は算術平均を採る | 最大値を採る | 場所は最大 | 3回 |
| 検知管5本を10分間に並べたB測定は最大値(幾何平均)を採る | 算術平均を採る | 時間は平均 | 3回 |
| B測定の変換係数はA測定とは別に求める | A測定と同じものを使う | 同じ物差しで比べる | 3回 |
| 2年間第1管理区分なら測定点を5未満にできる | 狭く、かつ濃度ほぼ均一のときだけ | 5個のデータが必要 | 2回 |
| 4点のうち1点だけ2回測って、測定値を5個にする | 各点の繰り返し回数は同一 | 重みを偏らせない | 2回 |
| B測定は局所的・短時間の個人ばく露の評価のため | 場の最悪の濃度の測定 | 個人ばく露はC・D測定 | 2回 |
| B測定はA測定の時間内に行わなければならない | 最も濃度が高くなる時間に行う | 最悪の瞬間を押さえる | 2回 |
過去問チェック(○×)
公表問題の選択肢を、○×形式に改題しました。正しい記述(○)も混ぜています。
- 測定点の縦方向と横方向の間隔は、必ずしも同一でなくてよい。
- 発散源が等間隔に並んでいる場合は、線の間隔が発散源の間隔と一致しないようにする。
- 相対濃度計によるA測定では、各測定点の測定時間を10分未満にできる。
- 濃度がほぼ均一であることが明らかなときは、6mを超える等間隔の線の交点を測定点にできる。
- 著しく狭く、濃度がほぼ均一な単位作業場所では、測定値の総数を5未満にできる。
- 検知管を使うA測定では、各測定点で複数の検知管を使い、10分以上続けて測らなければならない。
- 圧電天秤方式の相対濃度計によるB測定では、2分の測定を続けて5回行い、その算術平均をB測定値とする。
- B測定は、測定時に作業者がいなくても、立ち入ることがあれば、その作業位置で行う。
- 濃度が高くなる作業位置が複数あるときは、全ての位置で測り、その算術平均をB測定値とする。
- B測定は、局所的・短時間の個人ばく露を評価するために行う。
答えと解説
| No. | 答え | 解説(見抜く理由) | 出典 |
|---|---|---|---|
| 1 | ○ | 等間隔であればよく、縦横の間隔は別でよい | 2022年度第2回 |
| 2 | ○ | 一致させると測定点が発散源にそろって偏る | 2021年度第1回 |
| 3 | ○ | ためない測り方は10分不要 | 2021年度第1回 |
| 4 | ○ | 均一なら偏りの心配が小さい | 2021年度第1回 |
| 5 | × | 減らせるのは点の数。測定値の総数は5以上 | 2021年度第1回 |
| 6 | × | 検知管は10分未満でよい | 2022年度第2回 |
| 7 | ○ | 時間は平均(10分間の値にする) | 2022年度第2回 |
| 8 | ○ | 最悪の位置を押さえるのが目的 | 2021年度第1回 |
| 9 | × | 場所は最大 | 2022年度第2回 |
| 10 | × | 個人ばく露はC・D測定。B測定は場の測定 | 2021年度第1回 |
コラム(余力があれば)
「濃度がほぼ均一」の目安は幾何標準偏差1.2【C】 過去の測定記録で、測定値の幾何標準偏差がおおむね1.2以下なら、濃度がほぼ均一とみなせます。幾何標準偏差は「測定値がおよそ何倍の幅でばらつくか」を表す数で、1.2はばらつきがごく小さい状態です。出題は13回中1回(1.5とする誤り)で、数値だけ頭の片隅に置いておけば十分です。幾何標準偏差の意味は統計の節で扱います。
真空捕集びんでB測定をするときは5本程度 真空捕集びんは一瞬で空気を採る道具なので、10分間の濃度を求めるには、検知管と同じく時間を分けて複数回採ります。目安は5本程度です。「時間は平均」の考え方の延長で理解できます。